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Webディレクター/デザイナーtakasyiのウェブログ。日々の出来事や関心ごと・映画・写真・フットボール・Mac・Webデザインなどを中心に日本の片隅から細々と絶賛配信中。

ジャン=リュック・ゴダール『ゴダール・ソシアリスム』鑑賞

Film Socialisme

去年の12月3日に80歳を迎えたフランスの巨匠ジャン=リュック・ゴダールの最新作『ゴダール・ソシアリスム』をTOHOシネマズ シャンテにて鑑賞してきました。

102分間のゴダールライヴ

Film Socialisme 2

なにはともあれこの自身6年ぶりの長編劇映画、FilmoTVにてVOD(ビデオオンデマンド)公開を行なったり、オフィシャルWebサイトで本編102分をまるっと早回しにした映像を配信したりで、公開に先立ち行ったプロモーションが変態そのものなんですが、いわゆる商業映画からは離れ、あらゆる手法で映像と音の新しい可能性を追究していくゴダールならうなずけなくもないってところでしょうか。

『ゴダール・ソシアリスム』は“こんな事ども”、“どこへ行く、ヨーロッパ”、“われら人類”という3つの物語(もはや“物語”とかっていうありきたりな言葉では言い表せない気もするけど...)で構成されているが、始まりと同時に文学や映画、人物などをめまぐるしく引用させたゴダールの“ライヴ会場”へと放り出される。

そこに映し出されている映像ともそこで語られている内容ともシンクロせずに、乱暴なまでにモノラルとステレオを巧みに使い分け、別々のスピーカーから別々の情報を乗せた音が届く。映像もデジタルとデジタルを意図的に荒く加工したものと35mmフィルムが激しく切り替わり(全編をデジタル版で完成させ、その後ゴダール自身が編集に入り35mm変換を完成させた)、それらが交差する空間は刺激的かつ挑発的な空気に支配され、あたかもゴダール自身がすぐそばでVJ/DJを行ってるかのような、緻密でエネルギッシュで生々しい、まさに"ゴダールライヴ"が時にはブーストを起こしつつ息つく暇もなく展開される。

“引用”というシュートの雨あられ

Film Socialisme 3

人類の歴史を築いたとされるエジプト、パレスチナ、オデッサ、ギリシャ、ナポリ、バルセロナの6つの都市を辿る章「われら人類」。そのバルセロナのシーンではFCバルセロナのイニエスタが激しいチャージに遭うスローモーションのTV映像が他の映像と交互に流れる場面がある。

ゴダールの作品には「引用元を知らないと作品を理解できない」といわれるくらい多種多様な引用が登場する。この『ゴダール・ソシアリスム』でも本編を構成するほとんどの要素が何かしらの引用を用いていて、それはまるでFCバルセロナが格下チームを相手にゲームを支配し、次々と強烈なシュートを浴びせるかのように飛び込んでくる。

プログラムにて引用元の一覧が載っていたが、全部で79個の引用が盛り込まれている。これらすべての知識を持って作品に臨めたとしても1つずつ理解して片付けていくのは至難の業だろう。だが、たとえ知らなかったとしても、“BE動詞は使うな”、“言葉のあらゆるイメージを退避させること”、“太陽を襲ってやる 太陽が襲ってくるのなら”、“今や 悪い奴らが真剣だ”などなど、一つ一つのテキストには印象に残るものがあったり、前述のようにそれに映像と音が加わることにより、より興味深く掘り下げてみようという好奇心にもかられる。

劇場へ自ら足を運んでいるのにも関わらず、突如異空間に引きずり込まれ、ただただ事の成り行きを見守るしかない状況の中で、今まで感じたことのない震えに襲われた。「理解できる、理解できない」といった理性の範疇をとっくに超え、感性に直接訴えかけるような映像と音響。脳裏に焼き付くのはその不自然に絡み合う音と海のイメージと削られるイニエスタ。間違いなく自分自身のシネマライフに欠かすことの出来ない、ジャン=リュック・ゴダールのパワー溢れる1作品に感謝。

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Movie

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